こんな美しい教会を見て、まさか第二次世界大戦中に捕虜となった人々が建築したとは思わないだろう。それくらい繊細で美しい教会である。
場所はスコットランド北部にあるオークニー諸島で、今や非常に人気の高い観光スポット。メインランド島南端の対岸に浮かぶ小さな無人島にこの『イタリア礼拝堂』が建っている。
時は世界第二次対戦中。この近辺にあるスキャパフロー入江は英国海軍の重要な拠点だった。しかし1939年に英国戦艦ロイヤルオークがドイツ軍Uボートにより入江で撃沈。当時の海軍大臣ウィンストンチャーチルは『絶対にヒットラーが入ってこれない防壁を作れ』とチャーチルバリアの建設を命じた。その作業にイタリア人捕虜が割り当てられたのだ。
撃沈された船はひっくり返ったまま海に残され、チャーチルバリアは現在、オークニー諸島のメインランド島と他の島を結ぶ橋として機能しており、オークニー諸島を旅する人は何度もこの橋を渡る事になるだろう。
イタリア人捕虜の多くは収容所に送り込まれるものの、彼等にとって大切な心の拠り所が欠けている事を自覚する。それが祈りの場、教会であり、自分達の手で建てたという。さらに英国戦争省が礼拝堂の建設許可を出したと言うのだから、日本人にとって少し驚きではないだろうか。
さらにその建設に欠かせない鍛治職人、佐官職人、教会内装職人が捕虜の中にいたというのだから尚更驚き。戦争が終結し、イタリア人収容所が解体された後もそのまま残され、オークニー諸島の人々に愛され続けた。
そして1958年地元の有志によって保存委員会が結成され、この出来事に注目した英国国営放送BBCが教会を建築した中心人物を見つけ出し、インタビュー。その一年後、BBCの資金援助を得て、当の人物が修復にオークニー諸島へ来島し、次のように述べたという。
”この礼拝堂をあなた達に託します。私はあなた方の親切とおもてなしの素晴らしい想い出をイタリアへ持ち帰ります。そして私達の子孫はあなた方を敬愛する事を学ぶでしょう”
戦争に引き裂かれた運命もあっただろう。でも繋がれた絆もまたここにあったのである。
【オークニーのイタリア教会】The Italian Chapel
住所:Lambholm, Orkney, Orkney, KW17 2SF
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